9.2 後方シフト表記

後方シフト演算子\(B\)は、時系列のラグを扱う際に役立つ表記上の工夫です。 \[ B y_{t} = y_{t - 1} \: \] (参考文献のいくつかは、「後方シフト (backshift)」を表す\(B\)を使う替わりに、「ラグ (lag)」を表す\(L\)を使っています。)言い換えれば、\(B\)\(y_{t}\)に作用し、データを1時点後方へシフトさせる効果を持ちます。\(B\)\(y_{t}\)に2回適用すると、データを2時点後方へシフトさせます。 \[ B(By_{t}) = B^{2}y_{t} = y_{t-2}\: \] 月次データで「前年同月」を考えたい場合の表記は、\(B^{12}y_{t}\) = \(y_{t-12}\)です。

後方シフト演算子は、差分化のプロセスを描写するのに便利です。一つ目差分は以下のように書けます。 \[ y'_{t} = y_{t} - y_{t-1} = y_t - By_{t} = (1 - B)y_{t}\: \] ですから、一つ目差分を取ることは\((1 - B)\)と表せます。似たように、2次差分を計算するなら、以下のように書けます。 \[ y''_{t} = y_{t} - 2y_{t - 1} + y_{t - 2} = (1-2B+B^2)y_t = (1 - B)^{2} y_{t}\: \] 一般的に、\(d\)次差分は以下のように書けます。 \[ (1 - B)^{d} y_{t} \]

後方シフト表記は、差分を組み合わせる際に特に役立ちます。演算子を扱うのに通常の代数法則が使えるからです。特に、\(B\)項同士は掛け算できます。

例えば、季節差分後の一つ目差分は、以下のように書けます。 \[\begin{align*} (1-B)(1-B^m)y_t &= (1 - B - B^m + B^{m+1})y_t \\ &= y_t-y_{t-1}-y_{t-m}+y_{t-m-1} \end{align*}\] 先に得ていたものと同じ結果になりました。