6.3 Delphi手法

Delphi手法は、1950年代にランド研究所のOlaf HelmerとNorman Dalkeyが特定の軍事問題を解決する目的で発明したものです。この手法の鍵となる想定は、グループによる予測の方が個人による予測よりも一般的により正確だ、ということです。Delphi手法が狙うのは、専門家のグループから構造化した反復手法によりコンセンサス予測を生成することです。このプロセスを実行し管理するためにファシリテーターが任命されます。Delphi手法は一般に次のステージを踏みます。

  1. 専門家のパネルを召集。
  2. 予測業務/挑戦を設定し、専門家に配る。
  3. 各専門家が最初の予測とその根拠を回答。フィードバックを提供するため、回答を集めて要約。
  4. 専門家にフィードバックを提供。それを受けて専門家は自分の予測を見直す。満足できる水準のコンセンサスに達するまで、この手順を繰り返す。
  5. 最終的な予測は、専門家たちの予測を集計して生成。

Delphi手法の各ステージには特有の挑戦を伴います。それぞれについて、いくつかお薦めと議論を以下述べていきます。6

専門家と匿名性

ファシリテーターの最初の挑戦は、予測業務に貢献できる専門家グループを特定することです。通常、お薦めなのは、多様な専門分野にわたる5人から20人くらいを選ぶことです。専門家には予測と、その詳細な定性的根拠も提供してもらいます。

Delphi手法の鍵となる特徴は、参加する専門家はずっと匿名のままだということです。専門家が予測する際、政治的、社会的圧力から影響を受けないようにするためです。さらに、全ての専門家は等しい発言力が与えられ、自分の予測に説明責任を負います。グループ・ミーティングが開かれた場合によくある、貢献しないメンバーがいる一方で、支配するメンバーが出てくることを、こうして避けているのです。同時に、メンバーが年齢や個性によって不当な影響力を行使することも防いでいます。グループ内の座席配置のような単純なことでも、グループの力学に影響し得るとされています。さらに、グループ・ミーティング設定は熱狂を促進して個人の判断に影響し、楽観と自信過剰につながることに十分な証拠があります。7

匿名性の副産物は、専門家が物理的に同じ場所にグループとして集まる必要がないことです。この重要な利点は、多様な技能と技量を持つ専門家を多様な場所から集められる公算が高まることです。さらに、旅行に伴う費用と不便さをなくすことでプロセスの費用対効果が高まり、専門家の会合時間を設定する必要がなく、予測提出に共通の締切日さえ設定するだけで済むので、柔軟性も高まります。

Delphiにおける予測業務の設定

Delphi設定では、予測業務を設定する前に、専門家から予備的ラウンドで情報収集することが有益かもしれません。でなければ、専門家が最初の予測とその根拠を提出して、ファシリテーターがフィードバックを集める際に、全ての専門家では共有していない価値ある情報を特定しても良いでしょう。

フィードバック

専門家へのフィードバックは予測を要約した統計と定性的根拠の概要を含むべきです。専門家たちの予測を要約するには、数値データの要約やグラフの提示が使えます。

フィードバックを管理するのはファシリテーターなので、専門家の注意と情報を最も必要な分野に向けさせる余地があり得ます。例えば、四分位範囲を外れた回答とその予測の定性的根拠に、ファシリテーターが専門家の注意を向けさせるても良いでしょう。

反復

専門家が予測を提出し、フィードバックを受け取り、それと照らして自らの予測を見直すというプロセスを、専門家間で満足できる水準のコンセンサスに達するまで、繰り返します。満足できるコンセンサスとは、予測値の完全な収束ではなく、単に回答の散らばり具合が満足できる水準まで低減することです。通常、2、3回の反復で十分です。反復回数が増えるほど、専門家はより脱落しやすくなるので、多過ぎる反復は避けるべきです。

最終予測

最終予測は通常全ての専門家たちの予測に等しい加重を与えて生成します。しかし、最終予測を歪め得る極端な値の可能性を、ファシリテーターは心に留めておくべきです。

限界と変形

Delphi手法を適用すると、時間がかかることがあります。グループ・ミーティングなら、最終予測に達するのに数時間もあれば十分で、数分でさえ可能でしょう。Delphi設定ではほぼあり得ないことです。Delphi設定でコンセンサスに達するまで長い時間がかかっていると、パネルは興味とまとまりを失いかねません。

グループ設定では、個人間の交流によって、定性的根拠の明確化がより速くより良くできます。Delphi手法の変形として適用されることが多いのが「予測して、話し合って、予測する」手法で、予測提出は匿名のままですが、専門家は反復の間に交流することができます。この変形の弱点は、一番声の大きい人が不当な影響力を及ぼしかねないことです。

ファシリテーター

ファシリテーターの役割は最重要です。Delphiプロセスの設計と管理のほとんどは、ファシリテーターの責任です。専門家にフィードバックを提供し、最終予測を生成することもそうです。この役割を果たすためには、より注意が必要な分野を認識し、専門家たちの注意をそちらに向けさせられる十分な経験を、ファシリテーターは積んでいる必要があります。また、専門家の間で顔を合わせた交流がないので、重要な情報を皆に伝えることもファシリテーターの責任です。ファシリテーターが効率的で効果的であれば、判断による予測の設定で、Delphi手法が成功する可能性は劇的に高まります。

参考文献

Buehler, R., Messervey, D., & Griffin, D. (2005). Collaborative planning and prediction: Does group discussion affect optimistic biases in time estimation? Organizational Behavior and Human Decision Processes, 97(1), 47–63. [DOI]
Rowe, G. (2007). A guide to Delphi. Foresight: The International Journal of Applied Forecasting, 8, 11–16.
Rowe, G., & Wright, G. (1999). The Delphi technique as a forecasting tool: Issues and analysis. International Journal of Forecasting, 15(4), 353–375. [DOI]

  1. さらに学習するには、 Rowe (2007); Rowe & Wright (1999) を参照↩︎

  2. Buehler et al. (2005)↩︎