6.7 判断による調整

この最後の節では、過去のデータは入手可能で、それを使って統計による予測の生成が可能な状況を考えます。統計による予測に判断による調整を加えるのは、実務者がよくやることです。本章でこれまで述べてきた判断による予測の利点の全てを、これら調整が提供できるかもしれません。例えば、販促、大規模なスポーツイベント、休日、データにまだ反映されていない最近のイベントなどの、統計による予測では説明されていない要因を取り込む手段となり得ます。ただし、これらの利点が実現するのは、正しい条件が存在するときだけです。判断による予測と同様、判断による調整にもバイアスと限界が伴います。それらを最小化するためには、体系立った戦略を実行しなければなりません。

調整は散発的に使う

実務家は、そうすべきよりはるかに頻繁に調整を行い、しかも多くは間違った理由で調整しています。統計による予測を調整することで、予測のユーザーは予測を自分のものと感じ、信頼を感じます。ユーザーは統計による予測生成のメカニズムを、(この分野で何の訓練も受けていないのが通常ですから)理解も認識もしていないのが普通です。判断による調整を行うことで、ユーザーは予測に貢献し完成させたと感じ、自分の直観と解釈を予測に関連付けることができるようになります。予測がユーザーのものになるのです。

統計モデルが見逃したと考えられるデータ中の体系的パターンを正すことを、判断による調整は狙うべきではありません。そうすることは効果的でないと証明されています。ノイズの多い系列からありもしないパターンを、予測者は読み出しがちなためです。統計モデルの方がずっと上手くデータのパターンを説明するので、判断による調整は正確性を妨げるだけです。

判断による調整が最も効果的なのは、重大な追加情報が手元にあったり、調整の必要性に強い証拠があったりする場合です。統計モデルに取り込まれていない重要な追加情報がある場合のみ、調整するべきです。そのため、調整はその規模が大きいときに最も効果的と思われます。小さな調整(特に、楽観の幻想を促進する方向への調整)は正確性を損なうことが分かっており、避けるべきです。

構造化したアプローチを適用する

構造化・体系化されたアプローチを用いることは、判断による調整の正確性を改善します。6.2節で概要を示した鍵となる原理に従うことが大切です。特に、調整を文書化して、根拠を記載しなければならないことは、統計による予測を上書きするのをより挑戦の多いものにし、不要な調整から守ることになります。

調整はパネル(以下の事例を参照)で行うのが普通です。Delphi設定を使うと、大きな利点がもたらされます。しかし、調整をグループ・ミーティングで行う場合は、最初に鍵となる市場や製品の予測を検討するのが賢明です。このプロセスの間にあパネルのメンバーがだんだん疲れてくるからです。ミーティングが日中続くにつれ、調整がなされることは減っていきます。

事例: 旅行予測委員会

オーストラリアの政府機関Tourism Australiaは、オーストラリア旅行のあらゆる面での予測を年2回公表しています。公表される予測は旅行予測委員会が生成しています。旅行予測委員会は、オーストラリア連邦財務省、航空会社、コンサルティング会社、銀行部門の会社、旅行業者など、さまざまな政府や産業分野からの専門家から成る独立体です。

適用される予測方法論は反復プロセスです。最初に、モデルを基にした統計による予測がTourism Australia内の予測部署によって生成され、次に、判断による調整を2回にわたり行います。1ラウンド目では、旅行予測委員会テクニカル分科会11 (シニア研究員、エコノミスト、独立したアドバイザーから成ります)が、モデルに基づく予測を調整します。2ラウンド目、つまり最後のラウンドで、旅行予測委員会(産業と政府の専門家から成ります)が最終調整します。どちらのラウンドでも、調整はコンセンサスで行われます。

オーストラリア訪問者数の長期年次予測。回帰モデルについては7章、ETS(ExponenTial Smoothing 指数平滑化)モデルについては8章で学習します。

図 6.2: オーストラリア訪問者数の長期年次予測。回帰モデルについては7章、ETS(ExponenTial Smoothing 指数平滑化)モデルについては8章で学習します。

2008年に私たち12 はオーストラリア国内への旅行の予測を分析しました。公表された旅行予測委員会の予測は、特に長期で、楽観的だったと結論付け、代替となるモデルに基づく予測を提案しました。今は2011年までの実績値にアクセスできます。図6.2は、公表された予測と実績値をプロットしたものです。公表された旅行予測委員会の予測は楽観的であり続けたことが分かります。

この事例から何が学べるでしょう? 旅行予測委員会はその方法論の中で、生成するのは「目標」ではなく「予測」だと明確に述べているにもかかわらず、これは両者が混同されたケースではないでしょうか? このプロセスでは、予測者とユーザーは十分に区分されていますか? 反復プロセス自体に改善の余地はないでしょうか? ミーティングにおける調整プロセスは改善できないでしょうか? グループ・ミーティングが楽観を促進したことはないでしょうか? 国内旅行は日中の早いうちに検討しておくべきだったのではないでしょうか?

参考文献

Athanasopoulos, G., & Hyndman, R. J. (2008). Modelling and forecasting Australian domestic tourism. Tourism Management, 29(1), 19–31. [DOI]

  1. Athanasopoulosは2、3年の間、このテクニカル分科会のオブザーバーでした。↩︎

  2. G. Athanasopoulos & Hyndman (2008)↩︎