6.2 鍵となる原理

前節では、判断による予測の限界をいくつか挙げました。上手く構造化・体系化されたアプローチを判断による予測に使えば、それらの悪影響を減じる助けになります。一人だけで行うアプローチか、複数人で行うアプローチかにかかわらず、以下の原理を遵守すべきです。

予測業務を明確かつ簡潔に設定

予測が何に挑戦するか設定し、予測業務は何かを表明する際は注意が必要です。業務が何か、全員が明確に理解できることが大切です。全ての定義はあいまいで紛らわしい表現を避け、明確に理解できなければなりません。また、予測者の気をそらしかねない、感情的な用語や無関係な情報を取り込まないことも大切です。後に(6.3節、参照)述べるDelphi手法では、予測業務を設定する前に予備的なラウンドで情報収集することが有益なことがあります。

体系化されたアプローチを実行

判断による予測に体系化されたアプローチを用いることで、予測の正確性と一貫性を改善できます。予測業務に関連する情報のカテゴリーごとに、チェックリストを使うなどです。例えば、どの情報が重要で、それにどれだけの重きを置くか、特定しておくことは助けになります。新製品の需要を予測する場合のチェックリストなら、どの要因を考えるべきか、そして、それらをどう説明するかを問い、価格、競合他社の品質と供給量、その時の経済環境、製品が狙う人口など、を要因としてリストを作成します。こうした決定ルールをまとめるのに、かなりの努力と資源を費やすことには価値があります。最良で実行可能な体系化されたアプローチにつながるからです。

文書にして、根拠を記載

体系化されたアプローチで実行する決定ルールと想定を文書にして、公式なものにすると、同じルールが繰り返し実行されるので、一貫性を高められます。また、予測者に自分の予測を文書にして根拠を記載するよう求めることは、説明責任につながりバイアスを低減できます。さらに、公式文書にすることは、次項で提案する体系化された評価プロセスの大きな助けになります。

体系的に予測を評価

予測プロセスを体系的にモニターすることで、予期しなかった異常値を特定できます。特に、予測の記録を取りましょう。そして、対応する観測値が入手可能になった時、フィードバックを得るのに使いましょう。予測者として最善を尽くすとしても、周りの環境は常に変化しています。変化は起こるものなのです。だから、決定ルールと想定を評価するには、変化をモニターする必要があります。フィードバックと評価は、予測者が学習し予測の正確性を改善するのを助けます。

予測者とユーザーを区分

予測が関連する行動計画の実行責任者などの、予測ユーザー自身が予測業務を行う場合、予測の正確性は損なわれかねません。(1.2節と同様)ここでも、予測とは、過去のデータや予測に影響する将来のイベントを含む入手可能な全ての情報を所与として、将来を可能な限り正確に描くことだと、明確にすべきです。典型的なのは、新製品発売のケースです。予測は新製品の売上量の合理的推計であるべきで、会社の財務目標達成のために経営陣が予想、あるいは、期待する売上とは大きく異なることはあり得ます。このケースでは、ユーザーにリアリティ・チェックを届けることができるかもしれません。

予測者は潜在的なユーザーに予測を徹底して伝えることが大切です。6.7節で見るように、ユーザーは予測者から切り離され疎外されたと感じると、予測者に完全な信頼を置かなくなるかもしれません。予測につながったプロセスを明確に説明し、基本的想定の根拠を述べることは、ユーザーにいくらか保証を提供することになります。

その後、予測がどう使われ、どう実行されるかは、明らかに経営陣が決めることです。例えば、購買と維持すべき在庫水準を導くのに予測が使われるため、経営陣は予測を(過度に楽観的に)上方修正すると決めるかもしれません。そうした決定は、コスト・ベネフィット分析で過剰在庫を持つことのコストが売上を失うコストよりも低いという結果が出た後に、行われるかもしれません。こうしたタイプの調整は、予測プロセスの一部ではなく、目標設定や供給計画の一部であるべきです。それらを混同して、予測が目標として使われると、より容易に達成できるよう低く設定されかねません。もう一度言いますが、目標設定は予測生成とは違います。この二つを混同してはいけません。

以下の事例は、私たちの実務経験から来ています。判断による予測の二つの対照的なスタイルが含まれています。一つはここに提示した原理に従うもので、もう一つはそうでないものです。

事例: 医薬品補助スキーム Pharmaceutical Benefits Scheme (PBS)

オーストラリア政府は幅広い処方薬の費用に、PBSの一環として、補助金を提供しています。補助金には4つのカテゴリーがあります。割引自己負担、割引安全網、一般自己負担、一般安全網の4つです。割引カードを持っている人は、PBSのリストに載っている医薬品1つの購入につき($5.80)5の割引自己負担額を支払います。支払いが年度内に割引安全網という名で設定されたしきい値($348)を超えると、それ以降のPBS医薬品購入は全て無料になります。割引カードを持たない一般の患者はPBS医薬品1つの購入につき($35.40)の一般自己負担額を支払い、それが年度内に一般安全網の($1,363.30)を超えると、それ以降はPBS医薬品を1つ購入するたびに($5.80)だけを支払います。PBS予測プロセスは、PBSにリストされている医薬品84グループを使って、医薬品の量と各グループの総支出額と4つのPBSカテゴリーごとの支出額の予測、計672系列の予測を生成します。この予測プロセスは政府がPBSに割く予算の設定を助けます。予算は毎年$70億を超え、GDPの約1%に当たります。

PBS予測の生成プロセス

図 6.1: PBS予測の生成プロセス

6.1は、予測プロセスの要約です。新しくリストに載った医薬品の場合や、新しい政策の影響を推定する場合には、判断による予測を生成します。緑色の項目がそれらです。ピンク色の項目は、さまざまな政府省庁や関連する当局から得る使用データを示しています。青色の項目は、提供されたデータからの計算を示しています。新規リスト品と新政策を考慮するために、判断でデータを調整していますし、予測も判断によって調整しています。割引カードを持つ人口と総人口の両方が変化するので、予測は一人当たり単位で生成し、それから人口を掛けて月当たりの総量と支出額の予測を得ています。

私たちの一人(Hyndman)は、数年前に予測プロセスを評価するよう頼まれました。統計モデルだけを用いるよりも、新規リスト品と新政策の影響に判断を用いた方が良い予測になることが分かりました。しかし、予測の正確性と一貫性には改善の余地があることも分かりました。より構造化・体系化されたプロセスにすることで、特に政策の影響について、改善できるはずなのです。

新規リスト品の予測: PBSに自社の医薬品を加えるよう申請する会社は、予想される患者数、新医薬品の市場シェア、代替効果など医薬品のさまざまな側面について、詳細な予測の提出を求められます。医薬品補助諮問委員会は、これらの予測を生成するための高度に構造化・体系化されたアプローチを描いたガイドラインを提供して、プロセスの各手順につき注意深く文書化することを要求します。この構造化されたプロセスは、故意に自己に有利にしようとするバイアスの可能性と影響を低減する助けになっています。会社の予測は、分科会で2度にわたり詳細に評価されます。1度目は医薬品がPBSに加えられる前に、2度目は加えられた後に。最後に、いくつか選択した新規リスト品につき、リストされてから12カ月後と24カ月後に、観測値と予測を比較し、その結果を会社に送付してコメントを求めます。

政策影響の予測: 新規リスト品で用いられている高度に構造化されたプロセスと対照的に、政策影響の予測については何の体系化された手順もありませんでした。多くの場合、小さなチームで政策影響を予測していて、個人の仕事に頼っていることもしばしばありました。予測は通常、公式なレビュープロセスを受けることもありませんでした。政策影響の判断による予測の生成方法のためのガイドラインもなく、これらの予測がどう得られたのか、根底にある想定は何か、などの文書化も適切に行われていませんでした。

結果として、以下、いくつかの変更を推奨しました。

  • より構造化・体系化された予測アプローチを促すために、新政策の影響を予測するためのガイドラインを開発すること
  • 各ケースごとに予測手法と予測を形成する上で想定したこと全てを文書化すること
  • 新政策の予測は組織の異なった分野からの2人以上で行うこと
  • 各新政策実行の1年後に、予測のレビューをレビュー委員会で行うこと。特に、予測された年間費用、もしくは、節約が大きいものを対象に。レビュー委員会には予測生成に関わった者を含むべきだが、その他の者も含むこと

これら推奨は本節で述べた原理を反映しています。


  1. オーストラリア・ドル建て。オーストラリア政府が2012年分として公表した金額。↩︎